治療における一般的な質問事項にお答えします。
治療における一般的な質問事項にお答えします。
Q . なぜ、ある病院での診察の際に犬アトピー性皮膚炎の診断がされずに、次の病院の診察を受けた場合に診断が下される場合があるのでしょうか?(パート1)
A.
犬アトピー性皮膚炎を代表とする痒みがある病気を疑う動物を診察する際に、頻繁に症状を伺う項目が、“痒み”があるのかどうかです。私たち、ヒト科の動物は、指の爪を使って痒みのある部位を搔きむしります。では、動物のどのような行為が痒み行動なのでしょうか。普段の何気ない行為を観察して、“痒み行動”か確認する必要があります。
一般に、後ろ足で上半身を引っ搔く姿が犬の“痒み行動”と思いがちです。前足の可動域は人に比べて遥かに狭いため、犬は後ろ足を使うことが多いようです。犬にとって、一番可動域が広いのはあたまで、動かすしぐさも注意が必要です。また、人間が想像することと違い、動物にとって舐める行為はいろいろな意味を持っています。好意だって舐める行為のひとつなのです。痒み行動の代表的な行動が、舐める行為なのは、飼い主様が見逃しがちな代表的な例です。特に初めて動物を飼ったばかりの飼い主様は、動物の行動表現の理解が深まっていないので、見逃しがちです。
このように考えると、いろいろな行動が痒み行動の可能性があります。決して、後ろ足で引っ掻く、舐めるという行動だけが痒み行動とは限りません。よく観察してみてください。
Q. なぜ、ある病院での診察の際に犬アトピー性皮膚炎の診断がされずに、次の病院の診察を受けた場合に診断が下される場合があるのでしょうか?(パート2)
A.
病気には、軽い場(軽度)合と重い場合(重度)まで幅広く、症状が皮膚表面に現れる皮膚病では、軽度の場合、全く見た目には正常に見えます。とくに犬アトピー性皮膚炎の場合、獣医師からの質問に、飼い主様が「うちのワンちゃんには痒みがない」と答えたことで、犬アトピー性皮膚炎は見逃されることがあります。
次の動物病院に行くまでの間に、痒み行動が静かに進行するので、改めて観察した時に、見た目で分かるくらい、皮膚症状がでている場合があります。そのため、次の病院では犬アトピー性皮膚炎の診断が下されたと考えています。
Q. 痒がってもいないのに、体の一部が脱毛した飼い犬が犬アトピー性皮膚炎と診断されました
A.
まず、脱毛の原因にはいろいろありますが、痒みが原因となる掻きこわしも、脱毛の原因のひとつです。犬は、痒み行動には、後ろ足で上半身を引っ搔く、舐める、モノや人に体を擦りつける、冷たいところに寝っ転がる、などいろいろな反応を示します。第1の理由として、犬の反応を見えても、飼い主が、痒み行動に気が付かないことがあります。
第2の理由として、飼い主様がいない所で 痒み行動をする場合です。実は、このケースは一般的な痒みの反応です。動物にとって飼い主様とのコミュニケーションは、食事と並んで非常に重要です。一般的に、犬アトピー性皮膚炎は我慢ができないほど痒みが強くはないため、飼い主様を目の前にしても、痒み行動をしないことはよくあります。軽度の場合、飼い主が、なおさら痒み行動の判断ができないのは言うまでもありません。
例えば、幾らそっと近づいた場合でも、動物が寝ている場合でも、動物の方が音や匂いに敏感であるし、寝ていること(伏せて目をつぶっている行動)が睡眠とは限らないのです。周囲の環境に気を配るのは動物としては当然の行為ですし、それと並行して、動物の痒み行動は、よほど痒い場合でない限り、見つからないでしょう。
犬アトピー性皮膚炎の痒みは強くないわけですから、周囲の環境に注意する必要があるときは、痒み行動を行ないません。ただし、犬アトピー性皮膚炎でも慢性化して重症化すると皮膚が象の皮膚のようになるのですが、そのような重症な皮膚炎では劇的に強い痒みを生じるため、周囲の環境に関わらず、痒み行動に集中する例外もあることも付け加えておきます。
Q. 獣医師の治療の方針に従ったのに、治療成果が出ません
A.
見逃されている大きな事実として、飼い主様が皮膚病を罹患した動物を治療していることです。治療の成功の如何には、飼い主様の理解と努力の比重により、治療効果が高くなる病気です。
獣医師からの指示は、通常、標準的な治療です。なぜなら、皮膚病の多く、とくに犬アトピー性皮膚炎の治療方針は、この20年の間大きな変化はありません。もちろん、治療薬の進歩は非常に大きいのですが、基本的な方針は全く変わっていません。
たとえば「週2回シャンプーをしましょう」という獣医師の指示があるとしましょう。この行為はシャンプー療法と呼ばれ、一定の成果が期待できることは、教科書に記載される治療法として確立されています。
しかし、実はこのシャンプー療法は、期待通りの効果が現れない場合がよくあります。その理由のひとつには、飼い主様が治療を目的としたシャンプーの方法(皮膚炎に対応する入浴方法)の知らない場合があります。治療を指示した獣医師が、具体的なシャンプーの仕方を上手く指示できないことも、原因のひとつかもしれません。短い診療時間の中で、飼い主に具体的にどのような行為が間違いで、例えばどのようにシャンプーの仕方を工夫するべきか、伝えることは難しいです。
Q. 犬のシャンプーでは、犬の顔は洗わないのですよね?
A.
いいえ、皮膚病、とくに犬アトピー性皮膚炎の場合は、顔を含めた頭部を洗うことをお願いしています。頭部、とくに顔は皮膚バリア機能が低いので、痒みが非常に起きやすい部位だからです。
皮膚バリア機能とはその用語が示す通りですが、アレルゲンの侵入を防ぐことも含まれています。その機能は角質層が主に担っています。顔は、たとえば上眼瞼(うわまぶた)や眼結膜(白目やあかんべぇの部分)は角質層が薄く、粘膜の部分は角質層のバリア機能が低いため、アレルゲンや刺激物が侵入しやすいと考えられます。そのため、皮膚炎が初段階から生じやすいのです。
犬アトピー性皮膚炎は人のアトピー性皮膚炎とおなじく皮膚バリア機能が低下しています。その病態も人と同じく角質層のミクロの隙間を埋める皮脂(厳密には細胞間脂質と命名されている)が減少しているため、敏感肌や肌が弱い状態となっています。しかも、顔はもともと角質層が薄い部分や粘膜面が多いため、余計に肌荒れがしやすいのです。
動物は人のように自らシャワーを浴びる訳でないので、洗浄剤が目に入ったり、水が鼻の穴へ侵入すると激しく反応することがあるため、専門家である動物看護師やトリマーに洗い方を教えてもらうと不安が少なくなります。
Q. 犬アトピー性皮膚炎の犬で耳の管理をしているのですが、耳道から出てくる耳垢と周囲の耳たぶをコットンでふき取っています。それでは不十分でしょうか?
A.
あくまで症状によりますが、管理として不十分な場合が多いかもしれません。犬アトピー性皮膚炎の場合は、軽度の場合でも、耳道の炎症と前足の指やパットの間の皮膚炎だけの場合もあるくらい、耳の道(外耳道)を覆う皮膚の痒み(アレルギー由来の炎症)が生じることが多い部位です。
耳道の洗浄とは、耳の穴の中(耳道)に洗浄液を直接に入れて洗浄を行います。症状によっては、この洗浄が適さない場合があるので、詳しくは通院先の動物病院で聞いてみてください(例えば、鼓膜が破れている場合は、洗浄には注意が必要です)。
外耳道炎が犬アトピー性皮膚炎の症状として発症した場合は、耳垢(みみあか)が溜まりやすくなります。炎症が起きると皮脂の分泌が亢進し、角層の新陳代謝が上昇する変化が起こる場合に、耳垢が過剰に生産されるからです。外耳道の中に耳垢が貯留することで、細菌の過増殖が生じて細菌性外耳炎が生じると、強い違和感と感染症に対応するための過剰な炎症反応が起きることがあります。その結果、外耳炎の悪化が進むことがあります。
上記の変化を予防するため、犬アトピー性皮膚炎の管理の一環として、耳道自体の洗浄が必要な場合が多くあります。また、耳のケアは、耳由来の痒みを緩和する働きがあるので、細菌感染の予防以外でも、定期的な耳道洗浄を推奨します。
Q. しっかりお手入れをしているのに、むしろ足の先の皮膚炎が悪化しています。犬アトピー性皮膚炎が原因でしょうか?
A.
足の皮膚炎は、犬アトピー性皮膚炎の管理の中で非常に厄介な場合があります。英語でもポドダーマタイティス(足皮膚炎)という用語があるくらいに多い疾患で、とくに小型犬には多く、年齢が高くなると皮膚炎自体を憎悪する場合も多いのです。
多くの原因のうち、幾つかの例を説明します。原因の一つ目は暇つぶしのひとつとして足を弄っていることが原因のひとつです。二つ目に挙げるとしたら、小型犬に限りますが、本来の犬よりもサイズが矮小化しているため、足の大きさに比べて肉球(パット)が占めるサイズが非常に大きくなっています。その結果、肉球の嵩張ってしまい指(と肉球も含めて)同士が擦れてしまいます。手掌の大きな肉球(足底球)と指先の小さな肉球(指球/趾球)どうしが擦れて慢性の皮膚炎が生じます。
上に述べた2つの原因がある場合(おもに小型犬)、犬アトピー性皮膚炎に罹患した犬は肌が擦れる部位に皮膚炎が生じやすいため、指の間や肉球の隙間に痒みが起きて足皮膚炎が発症し、悪化します。さらに、犬が高齢な場合、すでに5~10年単位で足いじりが習慣化していることも原因です。また、老化により乾燥肌が悪化している場合、乾燥が炎症を起こして、痒みが悪化します。今までの内容から、老齢の犬アトピー性皮膚炎の足皮膚炎が治療の難しさが理解しやすいと思います。
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